口付けに溺れる

 まるで、触覚の全てを奪われたようだった。
 舌先の蜂蜜を舐めとるような感触。どっしりとした腕にすっぽりと抱きしめられたまま、菊田さんの膝の上で崩れた脚は、はだけた着物の間から淫らな姿を晒していた。
「寒いだろ?俺の膝、空いてるぜ」
 ――そんな、歯の浮くような台詞に、乗ってしまった。
 菊田さんは私を呼ぶとき、いつも最初にこうして膝の上に乗せたがる。私は私で、彼の胸にすっぽりおさまるのが好きだった。
 鼻先で香る、ほんの僅かな苦味。今日は煙草を吸われてきたのだと、苦々しい味を覚悟して唇を重ねる。
 けれど不思議なことに、菊田さんの舌先はいやに甘ったるかった。どうして、と聞くことも許されず何度も何度も啄まれて、息が上がる。
 離してとも言えず、まして抱きしめられていたいのに言えるはずもなく、ぎゅっと目を瞑ったまま、ただその甘ったるさを享受した。
 吐息が混ざる。ほんのりと、蜂蜜の味がする。

2024/02/24