ごまかしバックハグ

「誰にでもこんなこと、してるんですか?」

 後ろから伸びてきた手の甲に自分の手のひらを重ねて、わたしの背中を支える胸板に体重を預けた。
 ふかふかのソファにずっしり沈んだ恋人未満上司以上の男の太腿の間にすっぽり収まったまま指を絡める。
 背後から抱きしめられて熱を上げた身体のまま、瞬きを繰り返しながら細めた目で菊田さんの骨張った指をみつめる。答えを待つこの間にも、真夏の雪だるまのようにどろりと溶けてしまいそうだった。
 そんな私に向けられた言葉はいやに甘く、耳元で囁く声はわざとらしく、そしてわかりやすく熱を帯びており降り出したにわか雨を彷彿とさせた。

「あいにく、きみにだけだ。誰にでもやっていそうに見えるか?」
「だって、菊田さんモテるから」
「{{ kanjiName }}ちゃんにだけ好かれてりゃいいよ」

 唇が弧を描いた気がした。この指を握り返してしまったなら、心の声が伝わるだろうか。手招く幸福を見据えて、菊田さんの太い人差し指の節をするりと撫でた。

2023/07/22